首相のゴルフ会員権問題
執筆者:税理士 川崎 浩 この資料全部お読みいただいて約82秒です。

 知人の購入したゴルフ会員権を購入時点で、自分名義にしてゴルフ場を利用していた、いわゆる「首相のゴルフ会員権問題」から1ケ月余り。この問題も、首相の退陣表明とともに、国民から忘れ去られていってしまうのでしょうか。
 それにしても、一国のリーダーたる政治家としての社会常識や道義心のレベルの低さには溜め息を禁じえないところです。しかし、税法の専門家である私たちとしては、各種の報道と異なる視点から見て、議論や検討を要する問題でもあるとも思われます。新聞では、今回の名義書き換えは税法上贈与とみなされ多額の贈与税がかかるはずだ。しかも今となっては時効(税金の時効は納期限から5年〜7年)を迎え、結果として税金を免れていると首相を批判しています。また、国税当局は一般論として、不動産やゴルフ会員権等について、対価の授受がなく名義が変っている場合には、原則として贈与として取り扱うとしています。これに対して、首相側は名義書き換えの際に弁護士を介して、会員権の所有者は知人のものである等を確認する旨の念書を入れてあり贈与ではないと反論しています。そこで問題となるのが、この国税当局の見解の「原則として」という文言です。首相側としては、名義書き換え時に前記のような「念書」を入れているのだから、「原則」ではなく例外なのだと主張しているのです。
 私のクライアントの企業においても、事業上の必要性からゴルフ会員権を取得するケースがあります。この場合、法人会員権という制度がないゴルフ場や、あったとしても高額な時には、やむを得ず社長さんや役員名義で会社がゴルフ会員権を購入し、これを会社の財産としているケースがあり、このような処理を税務署も上記の見解の例外として認めています。このような考え方を、税法の専門的の言葉で「実質所得者課税の原則」と言います。この原則は単なる名義人と真の所有者とが異なる場合、真の所有者を中心にして課税問題をとらえようとする考え方です。そこで、首相のゴルフ会員権問題ですが、他にもなかなか微妙なところもあることは承知の上で、あえて私の個人的な見解を述べるなら、残念ながら?「実質所得者課税の原則」により、国税当局が当時の森氏に税を課することは難しかったように思うのです。もちろん事実が首相側の言う通りという前提の議論であって、仮に念書の作成がもっぱら税逃れの目的で、贈与という事実を隠すためであったならば、悪質な脱税ということになるのは当然のことです。 いずれにしても、今回の問題が発覚して、首相側は知人の名義にゴルフ会員権を戻すと表明しているようですから、国税当局がこれを単なる名義戻しとして見るか、逆贈与として税金をかけるか、それによって首相側の主張が正しさが判断されるものと思います。ここまで書いてきますと、どこからか「念書さえあればいいのか。」という声もきこえてきそうです。しかし、税務署もそう甘くはありません。本来であれば、名義書き換えの際にチェックが入り、表面上の書類ではなく事実がどこにあるかの解明に全力を注いでくるはずです。生兵法は大怪我のもと、注意を要します。


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